No.201 本来のフィットネスに立ち返ろう

「フィットネス」という言葉を聞くと、どうしても“筋肉をつけること”“運動不足の解消”“ダイエット”といったイメージが先に浮かびます。でも、本来のフィットネスの語源は “fit＝適応する” という意味。筋肉をムキムキにすることでも、他人に「すごいですね」と言われるためのものでもなく、私たちが環境にうまく適応するための力を育てる行為なのです。

そう考えると、腰痛や肩こり、体調不良、原因のよくわからない不快感など、日常に起こる多くの不調は「身体が外界とうまくフィットできていないサイン」と見ることができます。
ここでいう“外界”というのは決して大げさな話ではなく、「自分以外の何か」──たとえば、パソコン作業の姿勢、職場の人間関係、気温や湿度の変化、家庭の役割、あるいは自分自身への過剰な期待など、日々私たちを取り巻く環境そのものです。

おもしろいことに、人の身体はとても正直で、環境のわずかな変化にも敏感に反応します。例えば、ストレスで胃が痛くなるように、「自分と他者の境界線をうまく引けない」「抱えきれない負荷を受け続けている」そんな状態でも、身体は必ず何らかのサインを出します。そのサインのひとつが「痛み」や「凝り」という形で現れているのかもしれません。

だからこそ、目の前の不調を表面的に処理するだけでは不十分なのです。肩が凝っているから肩を揉む。腰が痛いから腰を鍛える。もちろん、それらが役立つ場面もありますが、人間の身体は機械ではないため、パーツごとに修理すれば治る、という単純な構造ではありません。

本当に大切なのは、
・その人がどんな環境で生活しているのか
・どんなクセや緊張があるのか
・身体のどの部分に過剰な負荷が集まっているのか
・呼吸や感覚の使い方にエラーはないか
・心理的なストレスが身体の反応として出ていないか
──こうした要素を総合的に観察し、一つひとつ紐解いていくこと。

「筋肉を揉む」「伸ばす」「鍛える」といったテクニックは、その総合的な理解の中でようやく意味を持ちます。逆に言えば、そこだけを切り取っても、本当の改善にはつながらないことが多いということです。

私自身、トレーニング指導に関わる中で痛感しているのは、フィットネスとは“身体の形”を変えることではなく、“身体が世界とどう関わるか”を変えることだということ。
ちょっとした感覚の使い方の変化や、姿勢の微調整、呼吸のリズムが整うだけでも、人は驚くほど楽に動けるようになります。そしてその変化は、不思議なことに生活の中のストレス耐性やメンタルの安定にも影響していきます。

つまりフィットネスとは、自分の身体を通して世界と上手に付き合うための“適応力の教育”。
ムキムキになる必要はありませんし、他人に見せびらかす必要もありません。
必要なのは、自分の身体を自分の味方につけること。

もし今、あなたの身体が何かしらのサインを出しているなら、それは「今のままではうまくフィットできていません」というメッセージかもしれません。
そのサインを無視せず、少し立ち止まって、身体と対話をしてみてください。きっと、次に進むヒントが見えてくるはずです。