No.200 揉んでも戻る…そんな肩こりの裏側にあるもの

肩こりの話をすると、多くの人が「とりあえずマッサージに行く」という選択をします。もちろん、前回書いたようにマッサージは立派な選択肢のひとつです。固まった筋肉に触れてもらう安心感は、痛みを落ち着かせるうえで非常に大きな意味があります。ただ、今日お伝えしたいのは「肩を揉むことが、必ずしも肩こりの核心を突いているとは限らない」ということです。

例えば、肩こりの正体が「眼球運動のエラー」だった場合。これは少し意外かもしれませんが、目の動きのスムーズさや左右差が崩れると、人は無意識に首や肩の筋肉を使って視界を安定させようとします。本来は目だけで済むはずの微調整を、首まわりが代わりに引き受けてしまうのです。その状態で肩を揉んでも、一時的に楽になるだけで、数時間後には元通り…ということが起きるわけです。「へぇ」となるポイントですが、人間の姿勢制御は“目→首→肩→体幹”という順番で影響し合うため、目の不調は姿勢にじわじわ波及します。

もう一つ例を出しましょう。パソコン作業の環境です。小さなノートパソコンを一日中覗き込む生活を続けると、誰でも首が前に出やすくなります。画面が低い、距離が近い、目線が下がる。この3つが揃えば、首の後ろの筋肉は絶えず引っ張られ、肩は自然と力み、呼吸さえ浅くなります。こうなると、肩こりは“筋肉が悪い”というより“環境のせいでそうならざるを得ない”状態。どれだけ肩を鍛えても、この環境が変わらなければ状況はほとんど改善しません。むしろ、鍛えるほど無意識の力みがクセになり、悪循環が続くことすらあります。

つまり、肩こりは「肩の問題」に見えて、実際には“目の使い方”“作業環境”“ストレス”“呼吸”“姿勢の癖”など、多くの要因が重なって起きています。痛みや不調というのは、ひとつの原因だけで説明できるほど単純ではなく、いくつかの“ズレ”が積み重なって表に出てくるものです。ここを見誤ると、ずっと同じ場所ばかりを攻め続け、改善の糸口が見えない…という状態に陥ります。

だからこそ大切なのは、「多面的に見ること」です。筋肉だけを見るのではなく、生活環境、視覚の使い方、身体のクセ、心理的ストレスなど、いくつかの角度から状況を整理していくこと。それによってものごとの輪郭がはっきりしてきます。

そして、もう一つ重要なのが“多面的にアドバイスできる人に相談する”ことです。身体の仕組み、生活環境、動作、呼吸、心理…これらを横断的に理解している人は多くありません。ですが、本当に改善したいなら、そういう視点を持つ人の存在が大きな助けになります。「肩を揉むべきか」「目を整えるべきか」「環境を変えるべきか」──どれを優先するべきかを一緒に整理できる人がそばにいれば、遠回りせず、確実に前へ進めます。

痛みの背景には、必ず“理由”があります。表面だけを追うのではなく、その奥に何が起きているのか。そこに目を向けることが、改善への最短ルートです。