No.199 マッサージは意味があるのか？

「マッサージって意味あるんですか？」——これは本当に多くの方からいただく質問です。たしかに、受けた瞬間は気持ちいいけれど、帰り道にはもう元どおり。根本改善にはならない。そんな声をこれまで何度も聞いてきました。今日は、この「マッサージは意味があるのか問題」について、あらためて専門家の立場から整理してみたいと思います。

まず大前提として、今回取り上げる『マッサージ』というのは、いわゆる「揉みほぐし」のことを指します。このマッサージは「一時的な対処療法」であると言えます。これは正直に認めた方が話が早い。ただ、「対処療法＝無意味」ではありません。むしろ多くの人は、この部分を誤解しているように感じます。慢性的な痛みの正体は、必ずしも体のどこかが壊れているからではありません。実は、痛みの信号を脳が長期間受け続けることで、脳そのものが“痛がり”になってしまうケースがある。そうなると、本来痛みが出るはずのない姿勢や動作でも痛みを感じるようになります。いわば、警報装置が過敏になりすぎている状態です。

ここで興味深いのは、「他人の手による皮膚刺激」が、この過敏になった警報装置のボリュームを一時的に下げてくれる、という点です。実は“自分で触る”のでは効果が弱い。人間の脳は、自分の動きは予測できるため刺激が弱く感じられます。ところが、他人の手から入る刺激は予測できないため、脳にとって「新しい情報」として処理され、痛みの回路の興奮が落ち着きやすい。これだけ聞くとちょっと意外かもしれませんが、神経科学的には非常に理にかなった現象です。

また、ストレスによって痛みが強くなるというのも、あまり知られていないポイントです。腰痛の約8割は画像検査では異常が見つからない、と言われるほど、心身のつながりは強い。ストレスが高ければ痛みの感受性も上がる。そのため、気持ち良いマッサージを受けてリラックスすること自体が、痛みの軽減に寄与することがある。これも“気持ちよさ”を軽視できない理由のひとつです。

ではなぜ、多くの人が「効果が続かない」と感じるのか。答えはシンプルで、痛みをつくる習慣が変わっていないからです。長時間の座り姿勢、猫背のままのスマホ操作、使われない筋肉、鈍くなった身体のセンサー。これらが揃えば、誰だって痛みは出ますし、マッサージで良くなってもまた戻るのは当然です。いわば、煙を扇いでいるだけで、火種はそのまま残っている状態です。

だからこそ、根本改善を求めるなら、身体にとって“良い刺激”を定期的に入れる必要があります。筋トレやストレッチのような立派な運動でなくても、歩く、関節を動かす、呼吸を深くする。こうした小さな刺激の積み重ねが、脳のセンサーを目覚めさせ、姿勢や動作の質を上げ、結果として痛みを遠ざける方向に働いてくれます。最新の研究でも、慢性痛改善の第一選択は「エクササイズ」であることが繰り返し示されています。マッサージは痛みのボリュームを下げてくれる“手助け”としては優秀ですが、ボリュームそのものを調整できるのは、結局のところ“あなた自身の身体の動き”だけです。

もし今、腰痛や肩こりに悩んでいるなら、マッサージを否定する必要はまったくありません。ただし、それだけで痛みから解放されようとするのは、少し難しい。むしろマッサージで心身を整えつつ、日常で身体を動かす習慣を増やしていく。これが最も自然で、最も再現性の高いアプローチです。結局のところ、身体は「良い刺激」を入れた分だけ、必ず応えてくれます。今感じている痛みを根本から変えたいなら、今日から少しずつ、身体との対話を取り戻してみてください。